1. 調査の目的
自動車システムの複雑化および規制強化に伴い、開発プロセスの体系化とトレーサビリティ確保の重要性が高まっている。本調査は、Automotive-SPICE®(ASPICE®)を適用した実プロジェクトの経験を収集し、
- プロセス改善効果
- 組織パフォーマンスへの影響
- 財務効果(ROI 等)
- 利害関係者の満足度
を体系的に評価することを目的としている。
2. 調査設計と制約
- 調査期間:2025年2月7日〜4月22日
- 回答者:209 名中 167 名が有効
- 匿名回答、最大33問、多言語(英・中・日・韓)
- 回答対象:各参加者が経験した「最も複雑な ASPICE®プロジェクト」
- 制約:
- 長期的効果や組織学習の蓄積は反映されない
- 評価は主観的傾向あり
- 経験豊富な層に偏る可能性
3. 調査結果
3.1 評価されたプロジェクトの概要
- 所属組織
- サプライヤ:58%
- コンサルティング:19%
- OEM:19%
- その他:少数(半導体など)
- 回答者の経験レベル
- 83%以上がエキスパート相当(intacs® PA 以上)
- 言語分布
- 英語47%、中国語49%、日本語4%(7件)
- チーム規模
- 典型的には 30 名前後の小〜中規模
- プロジェクト期間
- 多くが 2022〜2024 年に実施
- 扱った領域
- 機能安全、サイバーセキュリティ、認証系プロジェクトなど
- 評価プロセス範囲(VDA 推奨スコープ中心)
- MAN.3、SUP.1〜SUP.8
- SWE.1〜SWE.6
- SYS.2〜SYS.5(システム責任を伴う場合)
- 達成能力レベル(CL)
- CL2 が多数を占める
- CL3 のプロジェクトも増加傾向
3.2 プロセス改善効果
図およびコメントから、以下の改善が顕著:
- 要求トレーサビリティの改善(最も高い評価)
- 文書体系化により要求の追跡・管理が容易に
- エラー検出・修正の早期化
- レビュー、検証、エスカレーション手順の効果
- プロジェクト内コミュニケーション向上
- 役割・責任・インターフェースの明確化
- スケジュール遵守性向上(中長期的に改善)
- 初期導入時のドキュメント増加で遅延もあるが、成熟後は安定化
全体として、ASPICE®は構造化・透明性あるエンジニアリングを促し、後工程の手戻り削減につながる。
3.3 コストおよび財務効果
- 初期追加コスト
- 平均:開発予算の 11.65%
- 主な要因:追加工数、教育訓練、ツール、外部コンサル
- 初期成熟度により大きく変動
- コスト削減効果(同一プロジェクト内)
- エラーコスト減:36.5%
- 保守削減:23.9%
- 保証クレーム減:30.3%
- 効率向上:15.8%
- ROI(同一プロジェクト内)
- ポジティブ(>0%):約46%
- 中立:40%
- 一時的損失:12%
- 平均ROI:+1.85%
- ただし、長期的効果や顧客信頼向上は未計測だが重要
- 後続プロジェクトのROI
- 約90%が「測定可能な正のROI」
- プロセス再利用、組織学習、テンプレート化により大幅改善

3.4 満足度と価値認識
- プロジェクトメンバーの満足度
- 60%以上が「満足」または「非常に満足」
- 顧客満足度への影響
- 72%が「ポジティブ」
- 全体傾向
- ASPICE®を単なるコンプライアンス要求ではなく、
品質・効率・利益を高める戦略ツール と認識する傾向が強まっている。
- ASPICE®を単なるコンプライアンス要求ではなく、
4. 結論と展望
- ASPICE®の導入は、要求管理の強化、エラー早期検出、透明性向上 など明確な成果を生む
- 初期導入コストは一定規模必要だが、
プロセス成熟後は顕著なROIと組織的メリットが提供される - 課題は導入初期の負荷(教育、リソース確保、ドキュメント増など)
- 将来に向けた提言:
- 継続的改善とベストプラクティス活用
- 回答者層の拡大
- 長期的データ(縦断的調査)の収集が課題
総括
ASPICE®は「コスト増になる規格対応」ではなく、品質向上、プロジェクト安定化、長期的な収益性向上をもたらす投資であると、実務者の大多数が評価している。導入初期の壁を越えると、再利用性や組織学習がROIを大きく押し上げる点が特徴的である。
※詳細はintacsのレポート原本Survey_Insights_on_Experience_and_Profitability_of_Automotive-SPICER-Compliant_Projectsを参照してください。

