自動車業界では、ソフトウェア開発プロセスの成熟度を評価する枠組みとして Automotive SPICE(ASPICE) が広く活用されています。OEMがサプライヤーに求める重要な基準の一つであり、Level 2やLevel 3の達成が多くのプロジェクトで目標とされています。
一方で、私はASPICEアセッサーとして長年現場に関わる中で、ひとつの疑問を持ち続けていました。
「定量化が重視される自動車業界において、なぜASPICEのプロセス評価は主に定性的な判断に依拠しているのか?」
この点について、さまざまな角度から考察を深めてきました。以下にその内容をまとめます。
プロセス評価と製品リスク評価の違い
ASPICEは「開発プロセスが信頼できる水準にあるか」を評価する枠組みです。これに対し、ISO 26262(機能安全)やISO/SAE 21434(サイバーセキュリティ)のような規格は、製品・システムレベルのリスクを定量的に管理することを重視します。
両者は補完関係にあるとされ、実際の開発現場では連携して用いられることが多いです。ASPICEが定性的なNPLFスケール(Not / Partially / Largely / Fully achieved)を基盤としているのは、多様な組織規模や開発手法に対応し、ベンチマーキングを可能にするためという説明が一般的です。
(もちろん私はここに疑問を持ち続けています。すべてはリスクベースで定量化されるべきだと考えます)
NPLFスケールの特徴と課題
NPLFは柔軟性が高い一方で、アセッサー間の判断のばらつきが生じやすいという側面もあります。トレーニングでも一定の幅が許容される場合があり、同じ証拠に対して異なる評価が出る可能性があります。
これは、プロセス評価が人間の専門的判断に大きく依存しているためです。証拠に基づく判断が基本ですが、文脈の解釈や総合評価の部分で主観が入り込む余地があります。
また、実務ではコンサルティング支援とアセスメントが密接に関わるケースもあり、プロセス改善の取り組みが円滑に進む一方で、評価の透明性や一貫性をさらに高める余地があると感じる場面もあります。
AIを活用した新しい可能性
こうした中、注目して頂きたいのがAIを活用した評価支援です。私は「AIAssessor」という取り組みを通じて、以下のようなアプローチを試みています。
- オンプレミス環境での運用による機密保護
- エビデンスの自動解析と定量的な視点の導入
- 低コストで継続的な評価支援
AIを活用することで、再現性の向上やバイアスの低減、効率化が期待できます。特に、SDV(Software Defined Vehicle)やAIネイティブな開発が進む中で、プロセス評価もデータ駆動・継続的な形に進化していく可能性は大きいと考えています。
自動運転の例で言うなら、現在の人間中心の評価は「L2++」的な支援段階に近く、AIを中核とした「L3」相当の自律的な評価システムへの移行が、今後の方向性の一つになるかもしれません。
業界の未来に向けた考察
自動車業界はSDV/AIネイティブ開発への移行を明確に掲げています。その中で、ASPICEをはじめとするプロセス評価モデルがどのように進化していくかは、非常に重要なテーマです。
人間の経験と判断を活かしつつ、AIによる定量的な裏付けを強化するハイブリッドな形から、AIによるシステマティックな評価への移行が、現実的で効果的な進化の道筋ではないでしょうか。
私は自身の役割として、このAIシステムの可能性を具体的に示すことを進めています。いまだ完全ではありませんし、人間の判断は不可欠です。これから本格的な普及や制度的な対応は、若い世代の努力や業界全体の議論によって形作られていくものだと思います。
プロセス評価の目的は、あくまで「より良い製品・より信頼できる開発」を実現することです。技術の進化に合わせて、積極的に、評価の仕組みも柔軟にアップデートされていくことを期待しています。
(この記事は、ASPICEアセッサーとしての実務経験と、AIを活用したプロセス評価の可能性について考察したものです。業界全体の健全な進化を願って書きました。)
